ロシアとウクライナの全面戦争のリスクがメディアで大きく報じられています。
そもそも、なぜロシアとウクライナが緊迫した情勢になっているのか理解できていないので、簡単にまとめていきたいと思います。
先に結論だけ述べると
ウクライナ:NATOに加盟したい
ロシア:NATO加盟を絶対に阻止したい
上記の2点だといえます。
国境での紛争
先日、ウクライナ東部のルガンスク州において親ロシア派武装勢力がウクライナ兵に対して軍事的な威嚇を行っているというニュースを目にしました。これに対してロシア共和党は親ロシア派武装勢力に対して「国家承認」をするようプーチン大統領に求める決議案を下院に提出しました。これが実現すればウクライナの内政に対してロシアが介入できる口実を作ることに繋がります。クリミア併合の時も似たような手段を用いて(一見)民主的に独立させた上でロシアに併合した歴史があります。
ロシアは軍隊を国境付近に集結
昨年の7月にプーチン大統領が「ロシアとウクライナは一体である」という論文を発表してから、国境近くで軍事演習を盛んに実施しております。一部報道及びウクライナ国防省はロシア地上兵力の約35万人のうち12万5000人~17万5000人を国境付近に展開していると見積もっています。中央アジアや極東の兵力も含めて最新の兵器を西側に集結しています。
ロシア軍が展開するときの体制(緊急時の待機要員や休暇の取らせ方)については不明確ですが、3分の1以上の大規模展開をするとなると後方支援(武器、弾薬、燃料、装備、通信、兵士の衣食住など)にも莫大な費用が掛かります。今までにない動きであり、ただの脅しでここまでの規模を展開させるとは思えません。
また、ロシアはウクライナの北側に位置するベラルーシとの大規模演習を2月に計画していますし、クリミア半島においても1万人規模の軍事演習を実施しており、各方面から圧力を強めています。
アメリカやNATOの動き
アメリカ国防省は8500人規模の地上部隊に警戒態勢を取るように指示し、NATOが即応部隊を編成した場合に速やかに軍を展開できるように準備を開始しました。欧州のNATO各国も東側に艦艇や戦闘機を派遣し、兵力を集結しています。
また、アメリカを中心として経済措置を強化する検討をしており、
・米技術を使った輸出規制
・天然ガスなどのロシアに代わる供給元の確保
・国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除
について準備しています。
しかし、NATOとしても加盟国ではないウクライナに対しては表立った軍事介入はできず、ロシアが侵攻したら経済制裁をするぞ、というメッセージのみが伝わっているような状況です。
ウクライナとしては
このような圧力を掛けられている中でウクライナの国家安全保障・国防会議のダニロフ書記はロシアの軍事侵攻は物理的に不可能であるとしています。またコルスンスキー駐日大使も楽観的に見ており、全面的な戦争は困難であり予想していないと述べています。ただし、局地的な紛争の可能性は高いと見ており、その上で攻撃に対する防衛する準備や外交的な解決を目指す旨を述べています。ウクライナは14万5000人規模の兵力を有しており、ロシアが局地的な戦いにおいては短期的に勝利を収めるものの、その後はゲリラ戦を展開され占領統治は非常に厳しいものになると予想されます。アメリカの試算でもウクライナを全面侵攻する場合100個大隊の規模が必要と考えています。現在、展開している兵力は66~67個大隊であると考えられています。
ロシアとしてもウクライナ規模の国家と戦争を継続できるほど余裕はないと思います。いくら「強いロシア」が国民の支持を得ていたとしても経済的に悪化していけば、支持率を維持することは困難であると思います。
クリミア半島の併合
2014年のクリミア併合についても少し言及してみましょう。
ウクライナで親ロシア派のヤヌコビッチ政権が崩壊し、欧米寄りの新政権に対しクリミア半島の親ロシア派が抗議し、自衛軍を結成して議会や空港などを不法に占拠しました。プーチン大統領は軍の派遣を認めていなかったものの、併合後に500名ほどのリトルグリーンメンという武装した覆面勢力が展開していることについて言及していました。
クリミアを独立させ併合するまでの間にインターネットなどのインフラを遮断し、ウクライナからの情報をクリミア半島に入らないように遮断して、新政権についてネオナチスであるといった情報戦、世論戦を仕掛けてしました。そして思惑通りにことが進み、ソ連が崩壊してから初めて領土を拡大することに成功しました。
プーチン大統領の狙い
改めてプーチン大統領の狙いについて考えていきましょう。
これだけの軍事的な規模を展開し、隣国とも調整しながらことを進めて成果が得られないということは面子がつぶれます。何かしら落としどころを模索していると思います。今回の軍事展開の発端はウクライナがNATOへの参加を表明していることへの懸念から開始されたものです。狙っている成果の一つはウクライナがNATOに加盟せず、ロシア寄りの中立を保つことにあると思います。またクリミア半島のようにウクライナから独立し、ロシア寄りの地域の拡大または併合、これができれば非常に御の字であると考えているかもしれません。NATOからの圧力を阻む壁が欲しいのでロシアとしてもウクライナが都合の良い立ち位置でいてくれることはロシアの安全保障環境上極めて重要であると考えられます。
また、現在は国際社会におけるアメリカの相対的なプレゼンスが低下しているといえます。バイデン政権の求心力の低下、莫大な費用を掛けていたアフガン撤退、台頭する中国への対応など。ロシアが自由に動くには好機であったのは言うまでもありません。
ちなみに、NATOも一枚岩かと言われると決してYESとはいえません。世界はロシアの資源に依存している部分が多く、特に天然ガスはロシアからウクライナを通じたパイプラインがあり、この供給を止められた場合のダメージは計り知れません。
日本への影響は?
日本から見ると遠い西側で行われている国家間の問題だと思っていてはいけません。今回の国際社会の動きは中国をけん制する意味でも非常に重要なことであります。中国からすると台湾の併合は悲願であり、アメリカや国連の動きが取るに足らないとみると、ロシアと同様に強行的な軍事作戦に出る可能性が高くなるといえます。
もちろん日本としては法律上ウクライナに軍隊を派遣し、ロシアと事を構えることなどできません。大手メディアでは報道されませんが、ロシアがウクライナに対して行っている非軍事的な戦い方をよく調べ、日本国民が危機意識を共有して備える必要があります。中国は超限戦といった非対称戦(軍事vs軍事といった対称ではない)を得意とし、日本人とは違う時間軸で戦いを挑んできます。アメリカの対中専門家であったマイケルピルズベリーが自身の反省を踏まえて対中戦略についての警鐘を鳴らした「China2049」でも中国の100年マラソンという考え方がある。これは過去の屈辱を復讐すべく、中国共産党100周年に当たる2049年までに世界経済・軍事・政治のリーダー的地位をアメリカから奪取するという非常に長期的な戦略のことをいう。巨大な大陸故の悠久な時間軸が源泉となっている思想であろう。中国が一時的に親日政策を取ろうともその背後には恐ろしい思想があることを日本人は認識しなければならない。香港、台湾の次は間違いなく沖縄が狙われるだろう。
ロシアとウクライナ情勢からは脱線しましたが、日本にとって対岸の火事ではありません。
資源価格の上昇から世界経済の混乱が進みますし、コロナのいざこざも落ち着いていません。口火を切るのは北京オリンピック以降でしょうか?今後も目が離せません。
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